事務所ニュース:No.90 2022年10月25日発行

責任裁定 ―大気公害患者の新たなたたかい

弁護士 原 希世巳

本年6月28日、東京・神奈川・愛知・大阪の大気汚染公害患者153名が、公害等調整委員会(公調委)に、国(環境省)とトヨタ、日産など自動車メーカー7社に対し公害責任裁定の申請をしました。これは、国の独立機関である公調委が公害被害者の救済のため、独自に調査をして加害企業等に被害賠償を命じる手続で、3~4年で決着することを追求します。

 2007年に解決した東京大気汚染公害訴訟では、国やメーカーの公害発生責任が明らかにされ、東京都にぜん息医療費を無料とする制度が作られました。
 しかしこの救済制度は2015年3月に新規患者の認定が打切られ、2018年4月から月額6000円まで患者の自己負担とする制度改悪が進められました。また東京以外ではぜん息等の公害被害者を救済する制度はほとんど見当たりません。
 そこで改めて国と自動車メーカーの公害発生責任を再度明らかにして、全国的な大気汚染公害被害者の救済制度を国に作らせることを目指して、この申請をしました。
 環境省やメーカーは、「今では大気汚染は改善された」とか「無公害車の普及の努力をしている」と言っています。しかしかつてのディーゼル排ガス垂れ流しの時代に発病したぜん息等の患者は今でも苦しい生活を余儀なくされており、毎月多額の医療費負担にあえいでいます。「無公害車の普及」といっても我国は欧米諸国から大きく立ち後れていることは明白です。

 当事務所では私の他に小林容子、萩尾健太、山田聡美が弁護団として活動しています。多くの皆様のご支援をよろしくお願いします。

原発事故訴訟の現在 ―国の責任について

弁護士 米倉  勉

福島第一原発事故による周辺住民の被害についての裁判は、6月17日に、国の賠償責任を否定する、非常に問題がある判決が言い渡されました。

 この事故は、津波という自然災害に対して、事業者である東京電力が必要な対策を怠ったことが原因ですが、国は規制行政庁として、この対策の欠落について、規制権限を適切に行使して、十分な対応策を実施させる責任がありました。ところが最高裁判決は、事故の予防のために取るべき対策として、防潮堤(沖合の巨大な堤防)の設置だけでよいという判断を示した上で、想定していた津波に対応する防潮堤の高さや位置では、実際に生じた巨大津波を防ぐことができなかったから、それ以外の主要施設の水密化などを命じなかったとしても、国には責任がないというのです。
 しかし、原発については、想定外の事態が生じた場合でも、全電源喪失による冷却不能、そして放射性物質の漏出という最悪の事故を防止する安全対策を備えておくことが必要です。万一そうした事故が起きてしまえば、取り返しのつかない深刻な被害が発生するからです。そうでありながら、想定外の事態だったから、取り得た事故防止の措置を取っていなくても責任を負わないというのでは、国民の安全が確保できません。想定外の事態は、自然災害・人為的な攻撃など、様々に起こり得ます。それなのに、この判決は、その対応策を取らなくても構わないという宣言に等しい。
 国民の安全を確保するべき行政措置の在り方について、最終的な評価・判断をなす任務を負うはずの最高裁が、こんな非常識な判決をしてしまうことに、私は恐怖を覚えています。

コラム:ELVIS

事務局 形岡 七恵

 今回は、監督バズ・ラーマンによる見所たっぷりの映画「エルヴィス」をご紹介します。
 エルヴィスは、アメリカ南部の貧しい家庭で育ち、ブルースやゴスペルに大きな影響を受けました。初めてのステージで、エルヴィスの音楽と独特のダンスに、客たちが夢中になっていく様を描いたシーンは、見所の一つです。
 そんなエルヴィスにすかさず目を付けたのが、悪徳マネージャーとして有名なパーカー大佐です。彼は、自らマネージャーになることを申し出て、すぐに大手レコード会社RCAと契約し、全米を熱狂の渦に巻き込んでいきました。
 人種差別が根強く存在していた1950年代のアメリカ。エルヴィスの人気が高まるにつれ、保守層からは強い反発を買い、逮捕状まで出されました。それでもエルヴィスとその人気を止めることは誰にもできませんでした。
 パーカー大佐の最大の罪は、エルヴィスをアメリカ国内に閉じ込めてしまったことです。大佐は、自分がカジノでつくった多額の借金を帳消しにするのと引き換えに、ホテルでのショーに5年間出続ける契約を密かに結んでしまうのです。
 エルヴィスは、全身全霊で毎日ステージに上がり続け、やがて過労と薬物依存により身も心もボロボロになっていきました。
 生涯最後となったステージの本人映像が、映画のラストで流されます。体調は、立てないほど悪化していたようですが、情熱的な歌に胸が熱くなりました。享年42歳、早すぎる死を世界中が惜しんだのでした。

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