事務所ニュース:No.82 2018年10月20日発行

晴海オリンピック村住民訴訟~「9割引き」どころではなかった?~

弁護士 千葉 恵子

 以前の事務所ニュースで、2020東京オリンピックの選手村の敷地について、東京都が都有地を議会の議決もなく、デベロッパーに時価の9割引きの価格(129億6000万円)で譲渡契約を結んでしまったことについて住民監査請求を経て、住民訴訟を提起した事を報告しました。
 その後、法廷で3回の弁論が開かれました。
 本件訴訟は都有地を都民に対して充分な説明もなく、都議会の議決などもなく、再開発の手法を使って時価の9割引きで譲渡することの問題を提起するものです。
 法廷では、原告の意見陳述や、原告代理人による意見陳述をしていますが、さらに行政相手の訴訟として本件に特徴的なのが、被告東京都も意見陳述を行うことです。裁判は書面のやり取り、次回の期日を決めるなど形式的な事でよく、何が問題となっているのか、傍聴者、当事者の方も分かりにくいという声を聞くことがあります。
 本件では、口頭で双方がその時々で問題になっている争点、各自の主張を述べるので、傍聴者にも興味を持って聞いてもらえているように思います。
 さらに次回期日は10月26日15時東京地方裁判所419号法廷が予定されていますが、大きな争点である土地の価格について原告が鑑定書、鑑定書に基づく主張の書面を提出することとなっており、意見陳述を裁判所に要請する予定になっています。被告側の陳述も予想されます。鑑定書で土地価格がいくらと鑑定されたか、是非、傍聴にいらして下さい。

「働き方改革」一括法って何?

弁護士 萩尾 健太

 今年の春からの国会で一番の争点となっていた「働き方改革」一括法案。8つの法律を一括して改定するので分かりにくく、そのやり方自体が議会制民主主義をないがしろにするものでした。審議の過程で労働時間に関する厚労省のデータの間違いが発覚し、裁量労働制(残業代ゼロ、深夜・休日割増はある)の法人向け営業職への拡大などは撤回された。しかし、他は多数の労働者・市民の反対を押し切って6月29日に可決成立させられました。概要は以下の通りです。

① 雇用対策法を「労働施策総合推進法」に改め、「生産性向上」のため社会保険加入・解雇規制・残業規制などの雇用責任の不要な「雇用によらない働き方」を内閣主導で推進する。
② 残業時間の上限を特別な場合も年100時間未満(過労死ラインを超える)とする、労働基準法改定。自動車運転・建設・医師など長時間労働で利用者も安全が脅かされる業種を当面規制しない、という尻抜け法。
③ 一定の年収以上の専門職は、労使委員会の多数決と本人の同意があれば残業代ゼロの高度プロフェッショナル制度(本人不同意は勇気がいる)。健康を守るための深夜割増を払わない代わりに健康診断などをするというが、健康が破壊されてからでは遅い。また、年収要件の低額化が狙われている。
④ パート法に労働契約法の有期労働者の均等待遇規定を移して、不合理な格差を禁止=合理的な格差であればよい、という均衡待遇の説明義務を定めた。また、パート労働者と有期労働者の両方に、正規労働者と同一職務・同一配置変更(滅多にない)の場合の均等待遇を法定。派遣労働者法でも、同様の規定を法的義務化した。

 このように、大きな問題のある法律です。しかし、反対運動の結果の政府答弁や47項目の附帯決議を生かして、今後、労働政策審議会で作られる政省令や指針に乱用防止と厳格な運用を明記させ、職場で高度プロを導入させず、均衡・均等待遇拡大に取り組むことが求められます。

建設アスベスト訴訟のご報告

弁護士 森  孝博

 “静かなる時限爆弾”と呼ばれるアスベスト(石綿)の被害が建築業に集中的に現われています。そうした中、元建築作業従事者とその遺族が「謝れ、償え、なくせアスベスト被害」を合言葉に立ち上がり、アスベスト建材の製造・販売メーカーと国の責任を追及し、全国各地で裁判を闘っています(現在、被災者原告数は計689名)。
 そして、昨年10月27日、建設アスベスト訴訟で初となる高裁判決が東京高裁第5民事部で言い渡されたのに続き、今年3月14日に東京高裁第10民事部で、8月31日に大阪高裁第4民事部で、9月20日に大阪高裁第3民事部で相次いで判決が言い渡されました。

 いずれの高裁判決も国の責任を断罪し、建設アスベスト訴訟において国は10連敗となりました。しかも、国の違法事由や違法期間が拡大され、一層厳しく断罪されています。とりわけ、今年3月14日の東京高裁第10民事部の判決が、一人親方や中小零細事業主であった建築作業従事者のアスベスト被害に対する国の責任を認め、続く2つの大阪高裁判決でも同様の判断がなされたことは画期的です。
 また、昨年10月27日の東京高裁第5民事部の判決に続き、今年8月31日の大阪高裁第4民事部と9月20日の大阪高裁第3民事部の判決でも、建設アスベスト被害に対するメーカーの責任が認められ、国の責任とともにメーカーの責任を認める司法判断が確固たる流れとなりつつあります。

 建設アスベスト訴訟の原告689名(患者単位)のうち477名(69%)が解決を見ずにお亡くなりになっています(今年1月末時点、以下同様)。とりわけ最大の被害者を擁する東京第1陣訴訟では、308名のうち、提訴前に既に136名が亡くなっており、提訴後9年余りの闘いの中で更に98名が命を落としました。死亡者は308名中234名(76%)にも及んでおり、原告らの「生命あるうちの解決を」の声は極めて切実です。
 今回の高裁判決を武器に、世論を喚起させ、「建設アスベスト被害者補償基金制度」を創設させ、建設アスベスト問題の全面解決を勝ち取るつもりなので、皆さまには、これまで以上のご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。

「セクシャル・ハラスメント」の加害者にならないために

弁護士 小林 容子

 最近、ニュースで「セクシャル・ハラスメント」という言葉を見たり聞いたりする機会が多いですね。でも、「私には関係ない」と思っているあなた、ちょっと待ってください、あなたのイメージ古くないですか。
 2006年の雇用機会均等法改正により、女性だけに限らず、広く「セクシャル・ハラスメント」が成立しうることが明らかになりました。また、「セクシャル・ハラスメント」を理由とした懲戒処分の有効性が争われた事件で、最高裁は、5人の裁判官全員一致で、言葉によっても「セクシャル・ハラスメント」は成立し、懲戒処分は有効だと判断しました(2015年2月26日最高裁第1小法廷判決)。身体に触るなどの行為に比べ、言葉による「セクシャル・ハラスメント」は軽視されがちですが、「セクシャル・ハラスメント」をなくすためには、見過ごすことはできません。
 例えば、「まだ結婚しないの」とか「子どもはまだなの」と尋ねることや、「きれいになったね」とか「男のくせに」などと言うことも「セクシャル・ハラスメント」にあたる可能性があります。「えっ、本当? 」と思う人も多いことでしょう。「セクシャル・ハラスメント」にあたるか否かの判断基準は、受け手が不快・苦痛に感じるか否かですから、ますます気軽におしゃべりすることもできないと心配になるかもしれません。
 ここで大事なのは、日頃から円滑な人間関係ができているかどうかでしょう。憲法13条は、私たち1人1人が個人として尊重されると定めています。互いの個性を尊重した人間関係を築けば、「セクシャル・ハラスメント」なんて起こらないはずです。

【Q & A】賃貸マンションのハウスクリーニングと敷金

Answer/ 弁護士 吉田 悌一郎

 借りていたマンションを大家に返す際に、大家から、部屋のハウスクリーニング代を敷金から差し引くと言われました。このように敷金からハウスクリーニング代を天引きすることは許されるのでしょうか?

 敷金は、通常、借主の家賃の未払いが生じた場合など、借主に債務不履行があった場合の担保として、借主が入居する際に支払うお金です。敷金は、賃貸借が終了してマンションから退去した後、大家から借主に返還されます。敷金については、特に現行の民法には規定はありませんが、不動産賃貸借のいわば慣習となっています。
 一方で、借主は、賃貸借が終了してマンションから退去するとき、マンションの部屋を原状に回復して返す必要があります(民法616条・598条)。これを原状回復義務といいます。
 それでは、設問のように、大家が借主の原状回復義務の一環として、部屋のハウスクリーニング代を敷金から差し引くことは許されるのでしょうか?
 この点については最高裁の判例があり、借主は、その部屋の通常の使用に伴う損耗や汚れなどについては、賃料に含まれており、その点については原状回復義務は負わないとされています(最高裁平成17年12月16日判決)。
 したがって、そのハウスクリーニングが、借主の通常の使用にともなう汚れなどを清掃する性質のものであれば、大家がその代金を敷金から差し引くことは許されないことになります。他方で、例えば借主が長年その部屋でタバコを吸っていたために、部屋の壁紙がヤニで変色し、また臭いが取れないために大家が壁紙を貼り替えざるを得なくなったような場合には、現在では借主の通常の部屋の使用による汚れを越えるものと判断される可能性があります。その場合には、壁紙の張り替えは借主の原状回復義務の範囲に含まれることになり、大家は敷金からその費用を差し引いて返すことができるということになります。
 なお、現行の民法は大幅に改正され、2020年4月1日からこの新しい民法が施行される予定になっています。この改正法では、敷金についても条文で明示されることとなりました(改正法の622条の2第1項)。また、上記の原状回復義務の範囲についても、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化については、借主は原状回復義務を負わないと明確に規定され、上記の最高裁判例の内容が明文化されることになりました(改正法の621条)。