事務所ニュース:No.96 2025年10月20日発行
大気公害訴訟
弁護士 小林 容子
突然、まるで水中で溺れているように息ができなくなってしまい、空気中の酸素濃度には変わりがないのに、思わず窓を開けてしまう。夜、布団に横になると胸が圧迫されて息ができなくなるので、座ったままで朝を迎える。このようなことは、喘息患者の多くが経験していることです。
喘息は子どもの病気で大人になれば治ると思っている方もいるかもしれません。しかし、大人になっても変わらずに、毎日のように発作に苦しんでいる人、一旦は発作が起きなくなったものの、何年か後に再発してしまった人、さらには大人になってから発病してしまった人も多くいます。喘息は誰でもが、いつか発病する危険を抱えている病気なのです。
喘息の原因は大気汚染ですが、その原因物質は高度経済成長期の工場煤煙(SOx、NOx)から、自動車排気ガス、とりわけディーゼル排気ガス(NOx、SPM)に代わりました。しかし、国は、ディーゼル車の総量規制になかなか着手せず、低公害車の普及についても、国際的には低公害車と認められていないハイブリッド車も低公害車に含めている有様です。さらに自動車メーカーも、日野自動車、三菱自動車、トヨタ自動車、マツダ、スズキ、などが、排出ガス試験や燃費性能検査などにおいて、データ改ざん、試験中の部品交換、量産品とは異なる制御ソフトを使用するなどの不正を行ったことが明らかになりました。
喘息の治療は、発作が起きないように日常的にコントロールすることが重要です。また、医学の進歩によって、発作の心配なく過ごすことができる薬も開発されましたが、残念ながら高額で、誰もが使えるわけではありません。
医療費助成制度を国で創設することを目指して、喘息患者の皆さん115名は、国、首都高速道路、自動車メーカー7社を被告として、損害賠償を請求する裁判を起こしました。当事務所からは、私の他、原、山田が弁護団として加わっています。
皆さんのご支援をよろしくお願い致します。
賃料増減請求について
弁護士 米倉 勉
土地や建物の賃貸借において、その借賃(地代・家賃)の増額請求(ないし減額請求)が、話題になることがあります。特に、昨今のように土地の価格が上昇している時には、地代・家賃の増額請求が活発化する傾向になるでしょう。
賃貸借は、当事者間の契約ですから、その内容の1つである借賃の金額も、貸主と借主の合意によって決められているのが原則です。しかし、契約当初に合意した金額が、その後の事情の変化によって、不相当になってしまうこともあり得ます。そうした場合に、借地借家法では、当事者の一方から相手に対して、従前の借賃の増額ないし減額を請求することが認められています(同法11条、32条)。
とはいえ、本来は当事者の合意で決められるべきことですから、一方の考え・請求だけで、一方的に新たな金額を決めてしまうことは出来ません。あくまで、様々な経済事情の変動や、近傍同種の金額と比較して、不相当になっているといえる場合に、増額や減額が認められます。ですから、増額や減額を求める側は、物価の上昇や固定資産税の増減、地価の上昇ないし下降などの客観的な状況を調査して、その内容に基づいた話し合いを進めることが有用です。
このように、当事者間の話し合いが基本なのですが、協議が整わない時には、裁判所における手続きによって、解決することになります。その場合も、いきなり訴訟の提起によって判決を求めるのではなく、その前に、民事調停を行うべきものとされています(民事調停法24条の2:調停前置主義)。いずれにしても、上記のような、客観的な状況に基づいた話し合いが基本です。
建設アスベスト東京1陣・2陣訴訟─建材メーカーとの東京高裁和解成立の報告─
弁護士 森 孝博
本年8月7日、全国で最大規模の建設アスベスト東京1陣訴訟(差戻審・東京高裁第24民事部)、同東京2陣訴訟(控訴審・東京高裁第17民事部)において、原告351名(被災者単位、以下同様)と被告メーカー17社との間で和解が成立しました。東京1陣訴訟では、原告285名のうちの253名と被告メーカー7社との間で、7社が謝罪し総計約40億円の和解金を支払う和解が成立し、また共同不法行為責任が認められなかった被告メーカー5社との間でも、被災者に弔意とお見舞いを表明する和解が成立しました。東京2陣訴訟でも、原告112名のうちの98名と被告メーカー5社との間で、5社が謝罪し総額約11億円の和解金を支払う和解が成立し、また共同不法行為責任が認められなかった被告メーカー12社との間でも、被災者に弔意とお見舞いを表明する和解が成立しました。
東京1陣訴訟は提訴から17年、東京2陣訴訟も提訴から11年が経過しており、遅すぎたとはいえ、原告らが長年にわたり建材メーカーに求めてきた謝罪(あやまれ)と賠償(つぐなえ)をようやく実現することができました。今回の和解を受けて、現在係属中、あるいは今後提訴される同種訴訟でも和解成立を目指し、より早期の解決・救済を実現していきたいと考えています。同時に、屋外建設作業従事者や改修解体作業従事者など、救済の対象外とされている被災者もいるので、全ての建設アスベスト被害の救済を目指して、裁判や建設アスベスト給付金制度改正の運動にも引き続き取り組んでいきます。
これらの課題の実現のため、今後もご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。
舞台 『もがれた翼』
弁護士 前畑 龍
「もがれた翼」という劇をご存知でしょうか。東京弁護士会が主催する、弁護士と子どもたちが作るお芝居のことで、子どもの人権をめぐる問題を描いており、1994年に初演が行われ、以来20年以上にわたり続いてきました。劇では、いじめ、虐待、少年犯罪や学校問題など、子どもを取り巻く環境の中で起こる様々な問題が取り上げられて描かれています。日本初の子どもシェルターである「カリヨン子どもの家」はこの劇をひとつのきっかけとして、多くの人の協力のもとに創設されました。
そうした長年にわたって様々な問題を描いてきた歴史のあるお芝居ですが、実は私もひとりの弁護士として今年の公演に出演させていただきました。「もがれた翼」のお芝居は子役さんを除く他の出演者は全員が現役の弁護士なのですが、各々が様々な役を全力で演じていて、弁護士がやっているとは思えないくらいとても良い作品ができたと思います。
今年のテーマは「外国にルーツをもつ子ども」です。タイトルは「スクウェアルーツ」。現在、日本では外国にルーツをもつ方が多く生活をしていますが、言葉の問題や在留の問題など決して少なくない方がそれぞれ苦悩や問題を抱えています。その環境の中で生きる子どもにも様々な問題が生じています。今年の作品はそうした部分に焦点を当て、描かれた作品です。
公演は8月ですのでこの記事が出る頃には今年の公演は終わってしまっていますが、後日映像化される予定です。弁護士会のブックセンターやインターネットなどでDVDを買うことができますので、是非多くの方にご覧いただければと思います。
事務所ニュース:No.95 2025年4月20日発行11月22日【市民講座】「自分らしくながいきするために 高齢期の法律問題を考えよう」開催のお知らせ(参加費無料)