事務所ニュース:No.75 2015年1月1日発行

福島原発事故による「自死事件」

-判決の持つ意味と今後-

弁護士 米倉 勉

1 判決と東京電力の控訴断念

 福島地方裁判所は、2014年8月26日、東京電力に対し、福島原発事故による自死被害者である渡辺はま子さんの遺族に対して、損害賠償を支払うよう命じる判決を言い渡しました。避難者の「自死」という究極の被害の責任を問うものであるとともに、後述のように、それは15万人の避難者が現在も受け続けている被害の意味を問うものでした。
 この裁判は、私が幹事長を務めている福島原発被害弁護団が担当しました。東京電力は、弁護団の要求を受け容れ、控訴をせず、判決は確定しました。

2 判決の意味するもの

 この判決は、はま子さんが本件事故によっていかに過酷な被害に直面し、重大な精神的打撃を受けていたかを十分に示していました。
 はま子さんは本件事故まで、川俣町山木屋の地域で、家族とともに、地域の人々や豊かな自然に囲まれて幸せに暮らしてきました。ところが突然避難を強いられ、それまでの平穏な生活は完全に奪われてしまいました。故郷の自然は放射能によって汚染され、元の環境や生活は取り戻せません。そのような現実の中で、避難者は将来に向かって、それまでの地域生活・職業生活・家庭生活を奪われ、その生活を全面的に破壊されてしまったのです。このような、「故郷(ふるさと)の喪失」による精神的被害は重大であり、人生の破壊ともいうべき深刻さを持っています。判決は、その実態を十分に示すことで、自死という悲劇に対する被害者側の事情(心因性の寄与)は2割にとどまり、8割は本件事故による「故郷の喪失」という被害の甚大さによって強いられたものであることを認めたのです。

3 今後に向けて

 この判決は、既に数十人もの自死被害者を生じているといわれている、多くの悲惨な被害に対する賠償を促す役割を果たすでしょう。失われた命は戻ってきませんが、残された遺族の救済と生活保障は大切です。
 そしてそれだけではなく、この判決は、15万人に及ぶ避難者の被害救済のために、大きな意味を持ちます。今、全国各地の裁判所で避難者による「故郷(ふるさと)喪失」の被害救済を求める裁判が進行しています。私も、福島地裁いわき支部において、合計500人近い原告による避難者訴訟を担当しております。上記のとおり、はま子さんの自死は、この「故郷の喪失」という被害による喪失感・絶望感が、人間に、自ら死を選ぶほどの打撃を与えることを示しています。この判決が、そのような実態をあますところなく認定したことは、今後の避難者訴訟における、被害実態の理解や損害の評価についての、大きな先例となるでしょう。

「あやまれ つぐなえ なくせ原発・放射能汚染~いわき市民・避難住民の闘い」のご紹介

-DVDの紹介-

弁護士 吉田 悌一郎

 当事務所の所員が参加している福島原発被害弁護団では、福島原発事故の損害賠償を求める2つの裁判、いわき市民訴訟と避難者訴訟を提起しています。いわき市民訴訟は、福島原発から近接した地域で、再度の原発事故や低線量放射線被曝の不安などに苛まれながら生活しているいわき市民が原告です。また、避難者訴訟は、双葉郡等の強制避難区域から避難を強いられ、過酷な避難生活を続けている避難者が原告となっています。
 今回、このいわき市民訴訟と避難者訴訟の原告の方々が共同して、上記のDVDを作成しました。このDVDでは、それぞれ過酷な被害を受けているいわき市民と避難者が、
原発事故の加害者である国や東電とたたかうため、お互いの立場の違いを乗り越えて連帯していく姿を力強く描いています。DVDの後半では、福島原発被害弁護団幹事長である当事務所の米倉勉弁護士のインタビューも収録されています。また、ほんの一瞬ですが、私も登場します(笑)。
 DVDは1枚1000円。お問い合わせ先は「原発事故の完全賠償をさせる会」(☎0246-27-3322)です。よかったら是非お買い求め下さい。

労働法「雇用制度改革がもたらすもの」

弁護士 川井 浩平

 昨年秋の臨時国会で、派遣法「改正案」が可決されなかったことは記憶に新しいところですが、私たちをとりまく雇用環境・労働環境が、今、大きく変容させられようとしています。
 現在の雇用制度においては、労働法を基幹法として「使用者から労働者を守ろう」という労働者側に立った制度設計がなされています。そこには「個々の労働者とは(使用者との関係では)弱く保護されるべき者」という(資本的)成熟社会の哲学があります。実際に労働者が弱いかどうかは別として、「働く」ことに起因するリスクを減殺しておく、という雇用制度が社会保障的に確立しているのです。
 ところが、昨今の雇用制度改革はこのような哲学を大きく転換する青写真を描いています。労働者像を「強く主体的な者」(であるべき)と想定し、使用者側の立場から実に多様な雇用形態を認める制度設計(具体的には後述します)が構築されようとしてます。労働者を「労働力」という数算上の単位でとらえ、いかに使用者が合理的に利益を上げるか、最小限のコストで最大の利益を達成するか、に主眼を置いた制度設計はいかがなものでしょうか?
 消費者にとって、企業が利益を増し、コストを低く抑え、安価で質のいいものを提供してくれることは喜ばしいことです。しかし、そこに付随するものが成長戦略という片面的なものだけならば、企業が、社会の一員として、社会的公平性や社会的正義を実現していこうという哲学は見えてきません。
 そのような哲学を企業に求めること自体は事分けて論じられるべきでしょうが、ただ、企業と労働者の力関係を考えると、渦中の雇用制度改革が実現すると、労働者の「働き様」は「社会的公平性や社会的正義」を大きく欠いたものへと変容しかねません。以下、具体的に説明します。
 まず、派遣法の改正により、ある一定の業務に関し派遣労働者の顔ぶれさえ変えれば永続的に派遣労働者の使用が可能になります。また派遣元と無期限の雇用契約を結んでいる労働者は派遣先が永続的に派遣労働者として使用できるようになります。このような改正がなされれば、既に全体の4割に達した非正規労働者の数はますます増加し、正規労働者との経済的格差は深刻なものになるでしょう。無期転換ルールの撤廃が検討されていることを併せて考えると「生涯派遣」という労働も現実味を帯びてきます。
 派遣法の改正に加え、「限定正社員」、「解雇法理の柔軟化」や「残業代ゼロ」といった制度も導入されようとしています。特に「残業代ゼロ」法案は、非正規労働者のみならず正規労働者にとっても公平性を欠いた制度改革案です。
 個々の具体案に対する詳しい説明は紙面の都合上割愛します。ただ(当事務所の弁護士や労働組合などにお尋ねください)、今、必要とされているのは、ワーキングプア層の増加、リーマンショック後の大量派遣切り、過労死や過労自殺の増加といった労働法制の規制緩和がもたらしたであろう弊害を認め、人権、公平、正義といった基本的な価値に基づく労働法制の再整備ではないでしょうか。

集団的自衛権はいらない!広げよう平和の輪!世田谷集会

事務局 永谷 美代子

 昨年10月23日、梅ヶ丘パークホールで「集団的自衛権はいらない!広げよう平和の輪!世田谷集会」があり、小雨模様の肌寒い中、会場一杯104人の参加で盛り上がりました。
 毎年秋に「憲法のつどい」を開催して、昨年は6回目、今回は「生かそう憲法!今こそ9条を!世田谷の会」との共催です。
 最初に事務所の森孝博弁護士から、今回の閣議決定が首相とその側近だけで憲法9条の解釈をねじ曲げ日本をアメリカとともに戦争する国に変えてしまおうとする暴挙であること、首相のウソやごまかしに騙されてはいけないとの報告とともに、関連法案が国会で審議されるこれからが闘いの正念場になるので、運動を広げ、平和の輪を広げようとの訴えがありました。
 続いてリレートークでは、戦争ゲームに夢中な若者に命の尊さをわかってもらおうと日々奮闘する熱血先生や、5歳の息子の「日本は戦争しないんだよね」の言葉に励まされ首相官邸前に通う若いお母さん等、思いのこもった発言が続きました。中でも、中国で捕虜となった男性は、自身の悲惨な戦争体験を語り、捕虜でも人間らしく扱われたことで人の心を取り戻したこと、それが91歳(!)の今でも「戦争は二度としてはいけない」と訴え行動する原点にあるというお話しには胸を打たれました。途中、保坂区長も駆けつけ、「永田町には『国民は100日経てば忘れる』という言葉があるが、そうではないことを示そう」と激励の挨拶がありました。

9月13日、第3回市民講座「高齢者と消費者問題」を開催しました

事務局 首藤 祐己

◆被害は、ますます増えている!

 昨年初めから9月末までの警察発表によるオレオレ詐欺、振り込め詐欺の被害件数は、約一千件、その被害額は約35億5500万円、これは前年同期に比べ、件数で約2割、被害総額はなんと5割増加しているそうです。
 また最近では短期間で荒稼ぎをして、消えてしまう業者が増え、被害の回復が難しい案件も多くなっています。

◆感情をゆさぶって、慎重な判断をさせない手口

 講座では、まず消費者センター作成のDVDでその手口を見て、その後吉田悌一郎弁護士が被害事例の紹介をしました。
 息子が会社のお金を使い込んだなど身内の事件や事故の連絡で、不安をかきたてる,また払いすぎた税金が返ってくる、必ず儲かる未公開株が手に入るなど、うれしい情報で感情をゆさぶり、慎重な判断を狂わせるというのが手口です。
 ますます巧妙化する手口に、参加者はみな、自分も騙されるかもしれないという気分になりました。そして被害を防ぐには、
①自分だけは騙されないという先入観を捨てる。
②人は必ず歳をとると判断能力が衰えると自覚する。
③高齢者を孤独な状態におかないよう、家族が注意する。
など、確認しました。
 たんぽぽ市民講座は、身近な法律問題を、トラブル予防のためわかりやすく解説し、またもし万が一トラブルに巻き込まれたら、その初期対応をお伝えしています。
 次回は、2015年3月7日、成年後見制度の紹介です。どうぞご参加下さい。

【Q & A】交通事故について(保険会社に適正な金額を支払わせるために)

Answer/ 弁護士 吉田 悌一郎

 先日、自動車で交差点で信号待ちのために停車していたところ、後方から走向してきた自動車に自車を追突され、頚椎捻挫(むちうち)と診断されました。病院には6ヶ月間通院しました。先日、加害者が加入している損害保険会社より、示談金の提示をされたのですが、その金額が妥当な金額であるかどうかがよくわかりません。

 本件の事故の場合、追突した加害者に対して、治療関係費、休業損害(事故によって仕事を休まざるを得なくなった減収分など)、傷害慰謝料(怪我をして通院などをしたことの慰謝料)を請求することができます。また、頚椎捻挫について後遺症と認定されれば、さらに後遺症慰謝料(後遺症を受けたことの慰謝料)や後遺症逸失利益(後遺症によって仕事に支障が出るなどの場合に、後遺症がなければ労働により得られたであろう収入)の請求をすることができます。
 自動車の運転者には、いわゆる「自賠責保険」への加入が法律上義務づけられていますが、この自賠責保険では、傷害の場合は120万円、死亡の場合は3000万円、後遺障害については75万円~4000万円の範囲内でしか賠償金は支払われません。そこで、多くの自動車運転者は、自賠責保険ではカバーされない部分を補うために「任意保険」に加入しています。
 しかし、保険会社が提示する金額は、保険会社内部の基準に基づいて算定されており、裁判所で認められる金額よりもかなり低額な場合が多いです。しかも、そのことを知らずに、保険会社の基準による低い金額での示談に応じてしまっているというケースも少なくありません。
 このような場合、弁護士に相談すれば、果たして保険会社が提示している金額が、裁判で認められる金額などに照らして妥当かどうか(不当に低い金額でないかどうか)を判断することができます。
 ですので、保険会社からの提示があった場合、是非1度弁護士にご相談されることをお勧めします。

 自動車事故弁護士費用特約付の保険について教えて下さい。

 最近、保険に自動車事故弁護士費用特約が付けられている商品が多くみられます。これは、自動車事故により生命又は身体を害されたり、財物に損害を受け、弁護士への法律相談費用や、損害賠償請求に関する弁護士費用を負担した場合に、一定額を限度としてそれらの弁護士費用が保険会社から支払われるという特約です。
 特に、本件のように一方的に追突されたという事故では、こちら側には過失がないので、保険会社の示談代行制度を使うことができません。しかし、この弁護士費用特約があれば、弁護士を代理人として加害者側と示談交渉や裁判をすることができます。
 また、先に述べたとおり、保険会社の提示する金額は一般に裁判で認められる金額より低額であることが多いです。そこで、この弁護士費用特約を使って、交渉段階から弁護士に依頼すれば、事案にもよりますが、適正な金額による示談の可能性も高まります。
 また、交渉で話がまとまらない場合には、裁判を起こすという方法がありますが、この裁判も、交通事故の裁判実務に精通した弁護士に依頼した方が有利になることが多いものと考えられます。ですから、ご自身の保険にこの弁護士費用特約があるかどうかを確認し、特約がある場合には是非ご活用されることをお勧めします。 

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